2015年09月14日
視線は背けられ
隣室がアレクサンドルの部屋と聞いたがきっと角部屋がそうなのだろうとは思う。
間に一室あるのはアレクサンドルの寝室であろう。
リディアーヌの部屋にも続き間で寝室がある。そこもそれなりに広いけれど部屋と比べると簡素な 康泰領隊、といっていい寝室だった。
寝台もさほど大きいわけでもない。天蓋付きではあるけれどどうしても寝室のほうは見劣りしてしまう。
それでもブランダンで使っていた自分の部屋よりはずっと広いのだけれど。
どうしたらいいのか、と部屋をうろうろと落ち着かなげにうろついた。
侍女も婆やももうすでに下がっている正能量。…とはいえ呼び鈴を鳴らせばきっとすぐにやってくるはず。でも呼んでどうすれば?
アレクサンドルの部屋に伺った方がよいのか、と聞くなどできそうもないのだが…。
うろうろと部屋をうろついていると続き間の寝室の方から物音が聞こえリディアーヌは声を飲み込んだ。
人の気配がしてどうしようと青ざめる。
「リディ?」
声が聞こえればそれはアレ 蘇梅島自由行クサンドルの低い声でほっと安堵した。
だが部屋には誰もいなかったはずなのに…。
そう思いながらそっと寝室を覗き込むとやはりそこにはアレクサンドルが立っていた。
「あ…の…?」
シャンデリアの明かりの下、部屋の隅にあった内ドアが開いていた。どうやら隣のアレクサンドルの部屋と繋がっていたらしくそこからアレクサンドルは入ってきたらしい。
「…しばらくの間〝契約〟は保留にする」
「ほ…りゅう…?」
「夜毎来いと言った…アレだ」
ふいとアレクサンドルは顔をリディアーヌから背けぼそりと呟いた。
アレクサンドルとリディアーヌはリディアーヌの寝室の端と端に離れて立ったままだ。
「…それと明日から教師をつけるからそのつもりで」
「教師…?」
アレクサンドルの言葉に彼が一体何をリディアーヌにさせたいのかが分からなくてリディアーヌは頭を傾げた。
「ダンスやマナーはいらぬかもしれないが一応」
そういう問題ではなくてどうして?が抜けている。
「朝餐は部屋に運ばせる。空いた時間は何をしていてもよい。不便がある時や何か欲しい物がある時は私か侍女に言うように」
アレクサンドルの碧い瞳はリディアーヌから背けられたままだ。
あんなにブランダンでは夜毎に体を求められたのに今は興味を失ったのか頑なに視線は背けられている。
「…ゆっくり休むといい」
そう言ってアレクサンドルはリディアーヌの返事を聞きもせずに部屋の内ドアを潜り自分の部屋にであろう、戻って行ってしまった。
パタンと閉じられたドアに高い壁を感じられた。
手を伸ばせば届きそうだったアレクサンドルとの距離がまた開いたかのようだった。